包丁を研ぐ

イライラする。包丁が切れないのだ。
イライラする。ツレがうるさいのだ。
切るたびに涙がこぼれる。くやしい。


砥石を水に浸ける。荒砥石と中砥石の二つだ。
ブクブクと泡が出る。じぃっと泡の出を見ている。

研ぐ包丁を出す。


荒砥で刃こぼれの部分を研ぐ。一定の角度でスイスイと。
中砥石に変えて、一定のリズムでスッスッと研いでいく。カエリが全体に出たら
裏かえしてカエリをとる。かまぼこ板で最終的にカエリをとって出来上がり。
クレンザーで磨いて水でゆすぎ、そっと水滴をぬぐう。



ツレが後ろに立って嫌味を言う。「一刺しでイケそうだなぁ、オレのこと刺すの?」



あ〜ぁ、わかってないなぁ。こんなにうまく研げた包丁ではもったいなくて人なんか刺せるもんか。

薄〜く玉ねぎをスライスしていく。涙なんか一滴も出ない。思わず笑みがこぼれる。アタシの至福の時。ツレよ、あなたには一生かかってもわからないな。