さよなら、図書館。アタシは幸せだったかもしれません。

謹啓

アタクシ、このたび、図書館業界から足を洗いました。


勤務していた大学図書館において、アタシをはじめとするスタッフがほとんど総入れ替えに至るまでのさまざまな事柄については、聞くところによると業界の噂にもなってるらしいですが、おおむね、うわさは合ってます。
対利用者、対大学、対直接指揮命令者、対パートナー会社。
要するに、どちらを向いて仕事をしていけばいいのかわからなくなってしまった、というのが一緒に退職した仲間の辞職理由の根底に共通するものだと思います。
詳しいことはお約束により書けませんが、この業界を巡る派遣とか業務委託とか非正規雇用とか正規職員以外の働き方のシステムは、ここらへんできちんと考えないと、ありとあらゆるひずみが極限まできている気がしています。


アタシ自身は、つぎつぎに辞めていく仲間の仕事を、やっと入ってきた新人に的確に移譲するまでの間、自分自身の仕事にプラスしてしなければならないことの重圧と、女王のような人のご機嫌をとりながら仕事をすることに、精神的に疲弊してしまった、ということが退職の理由として挙げられます。

何を甘えた事を、と言われそうですが、それに見合う時給と扱いを受けていればニッコリ耐えられることでも、この時給とこの扱いでそこまでやってられるかい、というのは人間の尊厳としてありうることだと思いますし、実際、1.5倍の時給であればアタシも頑張ったかもしれません。

でも、この扱いで、これ以上はがんばるのは馬鹿みたい、他にもイキイキとできる仕事はあるし、少なくとも、派遣や委託の図書館員よりは絶対いい、というところまで、アタシたちは精神的に追い詰められていました。

次に辞めさせられるのは、自分かもしれない、それも、大したミスもないのに、気に入らないという理由だけで、というのは結構精神的にくるものです。ですから、辞めてしまった今、精神的には非常にすがすがしい毎日を送っております。たとえ、高校生男子のようなツレと精神的バトルを繰り返す毎日だったとしても。



さて、研究者になることも早々にコースアウトし*1 学術関係者のツマになることにも、諸般の事情で(おおむね、アタシのわがままな理由で)泣く泣く挫折してしまったアタシが、図書館、とりわけ大学図書館にこだわっていたのは、何らかの学術支援、研究支援に携わることによって、長年アタシの意識のそこにひっかかっていたこれらのことを、「グルーミング」していたということなんだと思います。

こうやって学術支援の一角を末端であっても担っていれば、自分の興味あるところも調べることが可能だし、いつか何かの形でヤツ*2の力になれる日もあるだろう、というはなはだ図書館員の風上にも置けぬ下世話な想いからずぅーっとこだわっていたに違いないのです。
そういうアタシにとって、大学図書館は極めて、居心地がよく、事情さえ許せば続けていきたい業種ではあります。



しかしながら、働くことの意義やプライドよりもまず、どれだけ収入が増えるか、どれだけ長く働けるかに重点を置かなければならない昨今、大学の有期雇用としての非常勤図書館員、一年ごとの更新に翻弄される派遣・委託としての図書館員は、働ける期間からも収入の面からもまず、アタシの脳裏から消さなければならない仕事でした。
それはとても残念なこと。でも、仕方ありません。
第一アタシぐらいのスキルを持った図書館員なんて掃いて捨てるほどいるし、同じスキルなら若くてきれいなおねぇちゃまや、素敵なおにいちゃまを雇いますよね。(少なくともアタシが雇用者ならそうする)
そういう意味でも業界を離れるにはよい潮時だったと思えます。
まぁ、未練がないといえば嘘になりますけどねぇ。
ですが、結婚も離婚もできない、と言われる派遣、委託司書業界の内情が改善されない限り、やはり身を置き続けることは不可能なのですよね。



まぁ、言うべきか言わざるべきかは悩むところですが、言ってしまえば司書の資格なんてあってもなくてもあんまり関係なく、もし、あったとしても正規司書の椅子の数は限られている。
つまり、非正規司書を量産するために今の司書課程が存在しているとしたら、なんの意味があるのでしょう。
今後、司書課程が大幅に改定されたとしても、その現実は変わらないわけです。
それに上級司書制度ができたとしても資格を取る人数ときちんと勤められる環境の司書の椅子の数のバランスは変わらないわけで。



何をどうやれば業界が変わっていくのかはホントに真剣に考えないとわからないのですが、アタシのような頭でもわかることは、結局、「安く上げよう」としている行為が、図書館業界全体の首を絞めている、ということです。

地方公共団体や、大学などが図書館運営費を押さえるのはわからないわけではありません。
しかし、ものには適正な価格があるわけで、入札で一番安かったということは実際に勤務する人たちのクオリティを下げていくことに繋がり、ひいては利用者にとってマイナス、つまり、その図書館全体の評価が下がると言っても過言ではないと思うのですが、いかがでしょう。

こういう傾向を変えていくには、ある程度の権力が必要だとアタシは思います。
ですから、図書館クラスタの若い皆さま、エラくなることを目指して下さい。
そして、今の不満をどうか忘れず、権力を持って改善に向かってくださると図書館は生まれ変わるんだと思います。
図書館界にも「ムロイシンジ」*3は必要なのです。


まぁ、辞めるにあたって好き勝手なことを書きましたが、おおむね、アタシは幸せに司書やってこれたことは確かで、関係各位にお礼申し上げたいと思います。
最後に、図書館クラスタの皆さま、正規非正規関係なく、御身大切になさり、ご活躍されますよう、心より願っております。

                                                 りえろん

                                                 敬 具


追伸:  あと、図書館司書の資格を持っていることや、前職が図書館員であった、ということは図書館業界から鞍替えする際、マイナスになることはあっても決してプラスとして作用しにくい、ということは申し添えておきますね。
ハロワの人でさえ、図書館員だったってことはイメージとして「冷たい」「高飛車」「協調性がない」というようなマイナス面が多いものね。とはっきり言われちゃいました。世間の印象なんてそんなもんです。




追伸:twitterの@rieronでフォロー下さっている図書館クラスタの皆さま。私は今後、図書館ネタは呟きませんので、フォローの解除をお願いいたします。もし、こいつの呟きは図書館以外のほうが面白いぜ、と思われた方は、引き続きのごひいきお願いします。いままで本当にありがとうございました。

*1:この浅薄な思考力では院生にも研究者にもなれないことぐらい自明の理だったのでした。

*2:前述の学術関係者

*3:室井慎次(柳葉敏郎)テレビドラマ、映画「踊る大捜査線」の警視庁キャリア